「広告ビジネス次の10年」横山隆治 榮枝洋文
榮枝洋文 デジタルインテリジェンス取締役/ニューヨークオフィス代表
- 土俵際の広告「代理」店
- データを制するものがビジネスを制する
- データマーケティング時代の広告主
- 塗り替わる業界地図
- 明暗が分かれる日本の状況
- 次世代広告マンに必要なスキル
- 近未来予測
- 10年後の広告業界
- 感想
土俵際の広告「代理」店
デジタル化、グローバル化の波に晒されている広告業界は収益モデルの多様化に対応することを求められている。機動的に新会社を自在に立ち上げて成功する案件や事業を育て得ることが大事。
絶滅する広告マン
- 広告主とお天気と株価の話しかできない幹部
- メディアの情報通というだけのメディア担当
- 一領域の専門家ではない営業マン
- 15 or 30秒のCMしか作れないCM職人
- データ分析のできないプランナー
次世代型広告代理店のリーダーに必要な資質
- マーケとコミュニケーションの本質を語ることができる
- マーケ全体の中に、デジタルを包含しデジタルによって得られる「気づき」をマーケ施策全体に反映させる構想力をプレゼンできる
- 従来のクリエイティブをデジタル/データマーケによってどう改革発展させられるかを説明できる
- 次世代型の広告代理店に新たなスキル、その育成方法を語ることができる
- ビジネスロジックを十分理解し、マーケ側からテクノロジーを評価できる
Aから始まるモデル(AIDMA, AISAS)は広告代理店の罠。「購買ファネルのどこに投資をすれば最も売れるのか」を考え、まずは認知がスタートというステレオタイプにこだわる広告代理店は、パートナーとしての役割は果たせない。
データを制するものがビジネスを制する
ビックデータの内、活用できるものの多くは、顧客または将来の顧客のデータベース。ところが、広告代理店はオーディエンスデータを保有していない(=仲介役の意味がない)。
広告代理店が最も保有・活用の期待が持てるデータは広告配信結果データ。しかし、広告のマーケ支援をするには、企業のファーストパーティーデータと統合し分析する価値のあるサードパーティーデータを保有するべき。中でもソーシャルメディアデータ、テレビ視聴系データを狙うべき。
定着してきた運用型広告は、効率は担保するが到達量の獲得は保証しない。効率と絶対量を両立するために、特定のクッキーデータに狙いを定めての1IMPを積み上げる「足し算」なのか、質の高い掲載面への配信から効率の悪い配信を排除していく「引き算」を使いわくることが必要。
マス/デジタル/リアルの3領域の統合的最適化を目指すことは、従来の「マス広告からリアル店舗へ」の顧客誘導を「経験と勘」から「データで最適化する」マーケへ移行させること。
データマーケティング時代の広告主
広告代理店に任せることと自社でやるべきことを明確にするべき。
- 広告キャンペーンの評価は自社で行う
- 運用型広告はブランド横断での管理を基本とし、自社内運用もしくは自社専属の広告代理店に担わせる
- DMPは、企業が自らテクノロジー会社と直接契約し自社内で運用する
オーディエンスデータにはマス広告の接触者、リアル店舗での購買関連行動などを全て紐づけていく。この動きは、「オンラインからオフラインへ」ではなく、実はデータ化できていない多くの来店客をデータ化するための「オフラインからオンラインへ」という意味が大きい。この紐付けの目的は、誘導や認知が購買行動にどれだけ結びつくのかを可視化すること。
塗り替わる業界地図
広告主はオーディエンスデータの保有とデジタル領域への投資を進め、従来型の広告代理店の中抜きが加速。
従来型の広告代理店はアドテク企業を吸収・合併・投資を行い、彼らの広告配信結果データの取得を急いでいる。
メディア側は自社の広告在庫をいかに収益化するかで頭を悩ませている。
アドテク企業は広告代理店との取引ではなく、広告主側との「直接取引」を伸ばし、VCの要望を満たす売上成長を追いかけ続ける。
アメリカでは、売上総利益においてデジタル、データ、PRに専門特化した企業群がオールインワンのマーケを標榜している従来型の広告代理店を上回っている (※データの保有量が売上総利益に比例)。
日本企業には自社技術、自社流を海外に出すことだけでなく、海外のメジャートレンドをそのまま取り入れるという「波の乗り方」ができる人材が登場することを期待。
明暗が分かれる日本の状況
海外に進出している大手広告代理店の現状
- 博報堂DYは、グループ連結売上合計の内、海外売上は3%台(2013年)
- ADKは、「本社日本」の営業売上が続いて、グローバル展開以前に本体に課題あり(2012年)
- 電通は、海外での利益貢献比率は全体の10%未満(2013年)
そもそも「グローバル化」とは軸足を世界に起きそれぞれの領域での成長を目指すもの。海外事業に求める考え方を「取扱高」を基準にするのではなく、グローバルの多様性を受け入れる(育む・馴染む)ことに基準を置く時代に入った。育てるものは「自分(本社)の取引」ではなく、「現地のパートナー」。
次世代広告マンに必要なスキル
R/GAが定義する次世代スキルセット
- インサイト&プランニング
- メディア/コネクション
- アナリティクス
- ビジュアルデザイン
- コピーライティング
- インタラクションデザイン
- テクノロジー
広告代理店にとって、一番改革が求められているのはフロントラインの「営業」。広告枠を売るのは従来型の営業マンでよいが、広告主は必ずしも広告枠を買いたいわけではなく、自社が抱えるマーケ上の課題を解決したい。
広告代理店はスキルの育成・リクルーティングが急務。日本のリクルーティングは新卒の比重が大きく有能なキャリアを持つ人材のリクルーティングが弱い。まずは、解析データや数字をビジネスに落とし込む設計・制度の構築が必要。
近未来予測
- ネット広告の効果指標に「認知」「態度変容」が加わる
- 動画広告用のクリエイティブ開発が進む
- DMPを活用したデータ分析・活用が試される
- プライベートDSPが本格始動する
- アマゾン保有のデータを企業がマーケで活用
- ネイティブ広告への注目が高まる
- メディア主導のコンテツリターゲティング広告の登場
10年後の広告業界
- 電通イージス・ネットワークのさらなるグローバル化
- 電博以外の総合広告代理店の衰退
- デジタルエキスパートの台頭
- IT、コンサルティング系企業の異業種参入
- ネット広告代理店による広告代理店ビジネス以外の事業開発
- 外資系広告代理店による日本への再進出
感想
専門用語が多く、この本を読むだけで広告ビジネスにおける知識が深まった(※この記事読んでくれた人には注釈を用意してなくてすみません。でもググりながら納得しながら読むとすごい理解が深まると思います)
この本は2014/05が第一刷発行なので、約3年しか経ってないのに、「近未来予測」の章の内容がもうすでに現在に行われていて、広告ビジネス業界のスピード感を感じた。
今後ニュース読む時は、榮倉奈々の第1児出産とかのエンタメではなく、広告についてもアンテナ張って記事読もうと思います。