「会社の老化は止められない」細谷功
著者:細谷功
ビジネスコンサルタント。1964年、神奈川県に生まれる。東京大学工学部を卒業後、東芝を経てコンサルティングの世界へ。アーンスト&ヤング、キャップジェミニなどの米仏日系コンサルティング会社を経て、2009年よりクニエのマネージングディレクターとなる。2012年より同社コンサルティングフェロー。専門領域は、製品開発、営業、マーケティング領域を中心とした戦略策定や業務・IT改革に関するコンサルティング。
- 会社という名の不可逆プロセス
- 老化した会社の「止められない」症候群
- 老化を加速させる大企業のジレンマ
- 会社の老化がイノベーターを殺す
- 何がパラダイムシフトを拒むのか
- 組織の宿命をどう乗り越えるのか
- 感想
会社という名の不可逆プロセス
会社の営みは「老化との戦い」である
会社は「大企業病」「官僚主義」になると、後戻りができない。会社の老化は不可逆プロセスとして進行して行く。
会社にも「子供」「大人」「老人」がある
会社とは「同じ価値観で動いている閉じた一つの系」である。スタートアップ企業が「赤ん坊」に相当し、伝統的巨大企業が「老人」と言える。ベンチャー企業も、未熟であると同時に、将来性をも併せ持つ「赤ん坊」である。
会社は暗黙のうちに「不老不死」を信じている
老化が進めば、必ず死ぬという自然の摂理は、会社にも当てはまる。「老化プロセス」は、「成長プロセス」からつながるプロセスだから、会社で起こっている老化には気づきにくい。
会社にはいくつもの不可逆プロセスがある
不可逆とは、時間の非対称性である。お盆の水は一度溢れると、元には戻らないのが良い例。組織の中には、そのような「不可逆プロセス」がいたるところに存在し、それらの組み合わせで会社全体が不可逆プロセスとなり、老化をもたらす。
「エントロピー増大の法則」は会社にも当てはまる
時間に対する不可逆性を表現しているのが、熱力学の第二法則「エントロピー増大の法則*1」。この法則は、組織論において、組織が一方通行で非効率になっていくことに対して比喩的に用いられる。
「人間」の心理も不可逆である
要するに、人間には、ある方向へ簡単に変化することはあっても、自然には逆方向には戻らないという性質がある。「習慣」はその一つであり、人間は一度得たものを(無ければないでなんともないのに)失うことを恐れてしまう。
老化した会社には「思考停止」現象が頻発する
「思考停止」を「上位概念で考えられなくなること」と定義する。噛み砕いて説明すると、思考が自分中心になり、目に見えて形に現れている具体的な者のみに目を奪われること。「思考停止」をした社員は、非効率な定例会議の増加、顧客サービスよりも自社組織の優先などを引き起こす。
老化した会社の「止められない」症候群
細分化の流れは止められない
組織における細分化は、組織の分業化と、階層の多層化に分けられる。どちらの増殖も不可逆的に進んでいく。その老化の行き着く先は、「大企業病」である。
コミュニケーションコストの増加は止められない
組織の細分化が進むにつれて、コミュニケーション機会は指数関数的に増えていく。組織が大きくなると、「規模の経済」が享受できるが、その分コミュニケーションコストがかかる。産業のサービス化・IT化・アプリ化といった動きは、規模の経済が聞きにくい構造へのシフトであり、「規模の不経済」は、これまで以上に問題となる。
性善説から性悪説への流れの変化は止められない
問題が起きるごとに会社内の規則が増加する。これは、「従業員を信用します」というスタンスから「信用しません」への不可逆プロセスの始まりである。規則の増加により、社員は「成功の最大化」でなく「失敗の最小化」という行動パターンへ変わっていく。
老化を加速させる大企業のジレンマ
評価指標を多様化すれば人材が凡庸化する
重要なのは評価指標の運用の仕方である。多様な評価指標+加点主義は人材の多様化を、多様な評価指標+減点主義は人材の凡庸化を意味する。
M&Aは老化に拍車をかける
老化度の進行具合「若」「老」で合併のパターンは3つに分けられる。
混ぜることで「劣化」は確実に進行する。この不可逆プロセスは組織にも当てはまっている。
会社の老化がイノベーターを殺す
多くはアンチイノベーターである
従業員は二つの人材に分けられる。
- 革新的な業務を行う「イノベーション人材」
- 確立された業務を行う「オペレーション人材」
会社が成長期を過ぎると、オペレーション人材が増え過ぎることで会社の老化へとつながる。
老化すれば社内政治家が増える
イノベーターが仕事をするモチベーションは、内発的なもの(世の中に役に立つこと、自分の好きなこと、面白いこと)であるのに対し、アンチイノベーターは外発的なもの(ノルマの達成、昇進、金銭的報酬)である。「金と数字」重視は、社内政治家を増幅させる。減点法による意思決定が重視される会社では、彼らは高く評価される。
思考回路は決して交わることがない
思考回路が異なる理由は、アンチイノベーターは、「かたいもの」だけを見るが、イノベーターは「やわらかいもの」も含めて考えている。
何がパラダイムシフトを拒むのか
会社はなぜか老化と世代交代を前提としていない
会社の事業計画で「寿命」が考慮されている話は聞いたことがない。人間の成長期には「体重が増えること」が成長の人等の指標であるが、ある段階からは「一定以上の体重増加は健康に悪い」と意識の転換を図る。しかし、会社の場合はいつまでも事業の成長を求められている。
負債化した「常識」が会社の変革を妨げる
「常識」を「一つの時代を生き抜くために必要な基本的な知識と考え方」と定義する。
「常識人」となった後、二つに路線が別れる。
- 超常識人
- 常識を身につけて活用した後に次の時代に向けて過去の経験や知識を再構築することで、前の常識を脱することができている
- 次世代の「サポーター」
- 過常識人
- 積み重ねた知識や経験が固まって、他に転用が効かなくなってしまっている
- 次世代の「抵抗勢力」
親会社の子離れ、子会社の親離れが世代交代を実現する
親が子に望むことは、早く独り立ちすることであるが、会社の世界では「ダメな親子関係」を体現している。子会社は親会社から与えられた仕事だけやっていくことに何も疑問を感じていない。
本来子会社には優秀なイノベーターを配置すべきである。彼らに別の環境で活躍できるような子会社の場を提供し、いずれは親離れさせるというのが親会社である。
組織の宿命をどう乗り越えるのか
無駄な抵抗はやめて運命を受け入れる
アンチエイジングはできても、根本から若返ることは不可能である。無駄な抵抗はせず、うまく世代交代を図ることで老化の弊害を最小限に抑えることをすべき。
不可逆プロセスを遅らせる方法をとる
「方向性の統一」により、老化の進行を遅らせることができる。その手段として、明確な戦略を描く・行動指針の明確化と浸透が挙げられる。
「イノベーター」と「アンチイノベーター」との適性を見極めた上で適切に「切り分ける」ことも有効である。砂糖は砂糖、塩は塩で使われて、初めて個性が生かされる。
感想
この本の著者、細谷功さん。幼稚園の時に死んだじいちゃんと名前が一緒なだけに、真面目な話を1度もすることがなかったから、あたかもじいちゃんの考えを聞いているかのように、細谷さんの本を読んでしまう。(悲しい感想の始まりですいませんw)
本の中で、一つ心に響いたフレーズがあった。
勝負事における万能の必勝法はないが、絶対負けない方法がある。それは勝負をしないこと。
かっこいい。。。自分は勝負せずに負けないという安定を選択してるくせに、果敢に勝負して失敗してる人を心の中で蔑んでみる感情を持ったことがないかと心に問いかけてしまいました。。この本はそんな自分を見つめ直す機会をくれた良書だった。
ということで、僕も勝負することにした。とりあえず、毎日コロコロを50回しようと思います。コロコロが何なのかは動画を参照下さい。(動画では立ってコロコロかつ失敗してますけど、座ってコロコロ50回で勘弁して下さい)